本作をみて、ジョーダン・ピール監督にすっかり魅せられた方も多かったことでしょう。
しかし今回の映画『US/アス』も様々な解釈方法があり、特にラストの場面では解釈のしかたによってこの映画の伝えたかったこと全体の解釈が変わってしまう可能性がありますよね。
ホラー映画といえども、強いメッセージが込められており、終わってみれば考察できる点が山ほどありました。
この記事では、映画『US/アス』の解釈方法、細かい点の考察とともに、この映画が伝えたかったことについて紹介します。
徹底的に分析しましたが、あくまで独自の解釈なので悪しからず…。
#これより先は映画『US/アス』のネタバレを含みます
映画『US/アス』が伝えたかったこととは?物語をネタバレ考察&ラスト解釈まとめ
まずはこの映画が伝えたかったことについて考察していきましょう。
結論から言うと、
この映画が表面上で伝えたかった事は、
私たちの最大の敵は自分自身つまり“私たち”であって状況を変えるには自分自身が変化しなければいけないという事
です。
タイトルにもなってるUS→「私たち」つまり自分自身に焦点を当てた作品になっています。
また、後述しますが、この物語を深く見つめると、ジョーダン・ピール監督は人種差別問題、はっきり言うと黒人差別問題についても訴えかけていると言えます。
ジョーダン・ピール監督の前作『ゲットアウト』でも黒人差別問題に触れている部分がありましたね。
そして物語では地上の恵まれた人間と地下の不遇な人間が登場します。やはりこの構図自体が本質的に伝えたかったことを暗示していると言えます。
つまり、先ほどの最大の敵は自分自身であるということを踏まえ、全体としては、
私たちが幸福だと思っている事は誰かの犠牲の上に成り立っており、それを忘れてはならず、それを変えなければならない。そのためには自分自身が変化するしかない。
ということであるのではないかと考えられます。
とはいえ、総じて天才的としか言えない構成の映画『US/アス』となっており、複雑な点も多く存在していました。
以降様々な点について考察していくうちに、映画『US/アス』の伝えたかった事の本質が見えてくると思います。
映画『US/アス』をジョーダン・ピール監督インタビューから読み解く
このインタビューを観ることで映画『US/アス』が本質的に伝えたかったことも見えてくるような気がします。
ジョーダン・ピール監督はインタビューで
誰もが“最大の敵は自分”と本質的に知りながらその真実を隠そうとしている
と語っています。
やはり、物語の根幹には自分自身という存在があって、それに対する考え方であったりそれを前にした時の恐怖であったりがこの映画には込められていそうです。
また監督はインタビューでスリラーについて尋ねられると、
優れたスリラーは現実味にあふれている。
と答えました。これは名言ですね。
なかでもジョーダン・ピール監督は構想段階で最も恐ろしい事は何かを自問したそうです。
その答えは
自分自身に会うこと
だったのだそう。誰もが自分自身から目を背けているのだという指摘にはハッとさせられますよね。
そして最後には、現在のアメリカという国がアウトサイダーから目を背け、自分自身(アメリカ)がアウトサイド(世界)の変化に関与していることに目を背けていることを指摘しました。
余談ですが、テザードの象徴のような存在でもあるレッドは劇中に「私たちもアメリカ人だ」と発言するシーンがあります。
これはUS→United States(アメリカ)を暗示しているのではないかとも考えられます。
映画『US/アス』で押さえておきたいポイント

映画『US/アス』を考察していく上で押さえておきたい気になるポイントは絞りに絞って以下の7点です。
- エレミア書11章11節
- うさぎ
- シンメトリー効果
- ハサミについて
- 地上と地下の関係
- レッドは何故言葉を話せたのか
- ラストの解釈
それでは1つずつ読み解いていきましょう。
エレミア書11章11節とは一体なんなのか?
まずは、エレミア書11章11節についてです。これは皆さんが一番気になる点だと思います。
かなり強調されていました。
登場したのは
- 幼少期のレッドがサンタクルーズビーチの遊園地を訪れた時におじさんが持っていたパネルに書かれていた。
- 大人になったアデレードが再びその地を訪れた際に自宅の時計が11時11分だった。
- サンタクルーズビーチをアデレードとその家族が訪れる際の道中で家からそのパネルを持ったおじさんの死体が運び出された。
先に言っておきますが、レッドとアデレードが混在しているのは地下と地上で物語の早々に入れ替わりが行われていたことが分かっているからです。
果たして、このエレミア書とは一体なんなのでしょうか。
まずは、エレミア書11章11節をみてみましょう。
【エレミア書11章11節】
それゆえ主はこう言われる、「見よ、わたしは災を彼らの上に下す。彼らはそれを免れることはできない。彼らがわたしを呼んでも、わたしは聞かない。」
一体どういうことなのか?
結論から言うと、
これは地上の裕福な人間と地下の恵まれない人々の関係を表している言葉であると劇中では捉えられると考えられます。
地上の人が豪華な食事をするほど、地下の人は血まみれのうさぎを食べなければいけない。地下の人々はそれを逃れることはできないが、地上の人々はその事実を知る由も無い。
こういうことでしょう。
これも、
誰かの幸せは誰かの不幸の上に成り立っているという物語の本質を捉えている部分であると考えられます。
物語に登場するうさぎに込められた意味
続いて“うさぎ”についてです。
うさぎが登場するのは地下のクローン人間が暮らすトンネルの内部のみでしたね。
このことからうさぎもクローンであると考えられます。
また、このうさぎたちは映画の最初のシーンでは小さな檻に閉じ込められています。
身動きが取れない状態は誰かに支配されていることを暗示しています。
その後、物語が進み地下のクローン人間たちが地上に出始めると、地下のうさぎも放たれていましたね。
つまりうさぎはその存在自体が、支配される地下のクローン人間の比喩のようなものであったと考えられます。
また、余談ですが他にも映画『US/アス』には動物が存在しました。
それは、もぐらです。
遊園地でレッドの父がモグラ叩きをしていました。
このモグラ叩きは、
もぐらが地上に出る→それを叩く
という構図から、
やはり地下のクローン人間を地上の人間が支配している事の暗示であると考えられます。
シンメトリー効果は登場していた?
ホラー映画の名作『シャイニング』ではシンメトリーが物語の鍵を握っていましたよね。
特に映画『シャイニング』では双子や、鏡の存在がもたらすシンメトリーの効果が非常に大きかったように感じられます。
そのことからジョーダン・ピール監督もこの映画『シャイニング』に少なからず影響を受けたのでしょう。
映画『US/アス』でも、シンメトリーが多用されていました。具体的には
- 鏡
- 私たち
- 双子
- ハサミ
などです。
【鏡】
まず鏡についてです。印象的だったのが、レッドが幼い頃に訪れた遊園地にあったFIND YOURSELFという名前の脱出ゲームの中にあった鏡の間ですね。
この鏡の間でレッドはアデレードと出会ってしまいました。
【私たち】
地上の人間と地下のクローンは姿が全く同じであるため、対峙する時にはまさにシンメトリーであったと言えるでしょう。
【双子】
映画『シャイニング』でとても印象的だった双子と同様に、映画『US/アス』でも双子の姉妹が登場しました。
【ハサミ】
ハサミは凶器として登場しました。こちらに関しては後述します。
このように、映画『US/アス』ではシンメトリー効果を多用していたと言えます。
凶器として登場したハサミに込められた意味
映画『US/アス』では地下のクローン人間たちの凶器として、ハサミが登場しました。
シンメトリー効果につながる話ではありますが、ジョーダン・ピール監督はインタビューでハサミについて以下のような解釈をしています。
ハサミは左右対称であって二重性を持っている。
二重性とは、日常生活においてありふれたものでありながら、一歩間違えば凶器となる恐ろしい一面も持っていらということだ。
このように、ハサミは二重性という名の下に、変化が見られる動具です。この変化というものを劇中では強調したかったのではないでしょうか。
地上と地下の世界の関係について
続いて、地上と地下の世界の関係性についてです。
これは、物語の大きなテーマであって深い意味を持つことは間違いないでしょう。
映画の開始と同時にまず、
アメリカの地下には大きな巨大な空間があり…
というような説明がなされました。まさにこれが地下世界のことです。
まず地上に住む人々と地下に住むクローン人間の関係性についてですが、これはそっくりそのまま現在の我々の社会の構図を表していると考えられます。
初めの結論で「誰かの幸せは誰かの不幸の上に成り立つ」という趣旨の主張を提示しましたが、まさにこれですね。
現在の我々の社会では裕福な人はさらに裕福に、貧困層はさらに貧困へと向かう。そんな世界です。
果たして、映画『US/アス』でも、地上(裕福)地下(不幸)のような構図になっていました。
貧困層は貧困から立ち上がることは難しいですよね。現実世界でも大きな課題として取り上げられています。
このように一度貧困になると、そこからは這い上がることはできないのだという認識が世界でも絶望感として広がっているように思います。また、このことが暗示されているようなシーンが映画『US/アス』では描かれていました。
それは、地下へと続くエスカレーターが下りしかなかったことです。
エスカレーターは本来上りと下りがセットで作られるはずです。しかし、地下世界へと続く道中には下りのエスカレーターしかありませんでした。
なんとも皮肉なシーンですよね。
レッドが言葉を話せた理由
結論から言うと、レッドが言葉を話せた理由はもともとは地上の人間であったからです。
幼少期にレッドとアデレード(クローン)が入れ替わっていますよね。
そのため、レッドは言葉を操ることができたのです。普通の人間であったのだから当たり前ですよね。
また、地下世界のその他のクローン人間たちは言葉を話すことはできません。
劇中ではよくわからない奇声のようなものを上げて吠えていましたよね。
レッドが言葉を話せることは、同時にアデレードがクローン人間であったことの証明にもなります。
アデレードは入れ替わりがあった直後に、言葉を全く話さなくなったと家族に心配されていました。これも、もともとは言葉を知らないクローン人間であるのだから当たり前ですよね。
映画『US/アス』ラストの解釈について
映画『US/アス』のラストの解釈についてです。
これまでの考察をまとめると、映画『US/アス』には自分自身を見つめ直すことによって考え方に変化を起こせというようなメッセージが込められています。
また、劇中では自分自身の影つまり、地下のクローン人間(アス)を倒すことができたものは生き残ることができています。
アデレードの一家もそれぞれ自分のクローンを自分自身の手によって倒しています。
ここで問題となってくるのは、なぜアデレードはレッドのことを倒すことができたのかについてです。
物語の終盤でアデレードは地下世界までレッドを追い詰め、最終的にはレッドを倒しましたよね。
整理すると、もともとはレッドが地上世界に住んでおり、アデレードは地下世界のレッドのクローンでしたよね。
しかし幼少期の入れ替わりによってレッドは地下で暮らすように、また、アデレードは地上で暮らすようになっています。
分かりやすくすると、
【幼少期】
レッド(地上世界):アデレード(地下世界)
【幼少期以降】
アデレード(地上世界):レッド(地下世界)
となっています。
つまり、地上世界で普通に暮らしていたアデレードはクローン人間であったはずなのに、もともとは地上の人間であったレッドのことを倒してしまいました。
ここには、ジョーダン・ピール監督の最大の皮肉と批判が込められていると考えられます。
それは、
幸福になったものは不幸なものに手を差し伸べず、また不幸なものはそこから這い上がることができない
という事です。
現在の社会がそのような状況になってしまっているのだと痛烈に批判されたように感じました。
幸福をつかんだアデレードと、どん底に突き落とされたレッド。幸福をつかんアデレードが結局はレッドを殺してしまうというなんとも皮肉な展開となっていました。
最後に、レッドとアデレードの身に起きた幼少期の回想シーンでアデレードがレッドを地下世界に引きずりおろし、手錠をかけて地下世界に葬り去るシーンがありました。
このシーンはレッドが地下世界で蜂起して地上世界に這い上がり、アデレードの家を訪れ、アデレード自身に手錠をかけさせるシーンと重なりますよね。
振り返ってみるとこのシーンが個人的に一番うわぁ…。ってなる描写だったなと感じます。