映画『グエムル漢江の怪物』は2006年に公開された韓国映画だ。監督はポン・ジュノ。ポン・ジュノ監督といえば、2020年に『パラサイト半地下の家族』でアジア映画史上初のアカデミー賞作品賞に輝いたことで有名だ。もちろんその年の監督賞も受賞している。
そんなポン・ジュノ監督作品としてとても興味深い作品が『グエムル漢江の怪物』だ。公開当時、韓国では1,300万人もの観客を動員し歴代観客総動員数にも名を連ねる作品である。
『グエムル漢江の怪物』ネタバレ考察。伝えたかったこたとは。〜強烈な社会風刺〜
本作に登場するのは主に一つの家族だ。内訳は以下の通り。
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父:カンドゥ(ソン・ガンホ)
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娘:ヒョンソ
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祖父:ヒボン(ピョン・ヒボン)
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弟(伯父):ナミル(パク・ヘイル)
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妹(伯母):ナムジュ(ペ・ドゥナ)
漢江に突如出現した黒い怪物(グエムル)は人々を襲い始めた。必死に逃げるも、カンドゥの娘ヒョンソはさらわれてしまう。
在韓米軍はグエムルに接触したものたちを隔離しようとするもカンドゥ一家は抵抗。カンドゥたちは、ヒョンソを救うべくグエムルに立ち向かう。
結論からいうと、本作で伝えたかったことは米国批判であると考えられる。
ポン・ジュノ監督は本作に反米要素を含んでいると明かしており、社会風刺的メタファー色の強い作品であることは確かだ。
物語の冒頭でホルムアルデヒドを大量に流すシーンがあるが、これは実際に起こった事件を元にしている。
2000年7月、ソウル市内の龍山米軍基地から漢江に大量のホルムアルデヒドが流されたのだ。
このことは2000年末の中韓米軍地位協定改定にもつながった印象的な事件として韓国国民には根付いている。
この事件をあからさまに描くのは流石ポン・ジュノといったところだ。
その他にも物語のラストでグエムルを倒すために在韓米軍が使用した化学兵器の名称が「エージェント・イエロー」というものであった。
このおかしな名称にも反米要素が含まれている。米国がベトナム戦争で使用した枯葉剤というものをご存知だろうか。
この枯葉剤は有毒な除草剤として知られており木々を枯れさせるだけでなく様々な健康被害を起こしたとされている。
この枯葉剤は「エージェント・オレンジ(AgentOrange)」と呼ばれており、これに掛けて「エージェント・イエロー」という名称となったことは明らかである。
グエムルが誕生してしまった要因は先ほど紹介したホルムアルデヒドである。
劇中の米軍からしてみればその事実が拡散してしまうことはよくない。
そのためウイルスが充満していることにして(ウイルスなど実際は充満していなかった)グエムルが出現するエリア内から人々を避難させた。
「エージェント・イエロー」というウイルスを一掃する化学兵器を一方的に散布することになると市民は反発の声を強めた。
結果的にグエムルのトドメを刺したのはカンドゥであった。ここにはポン・ジュノ監督の痛烈な批判が込められている。
在韓米軍のせいで誕生してしまった怪物を結果的には韓国人が撃退する。つまり、米国の尻拭いを韓国がすることになるのだ。
実際に2000年に起きたホルムアルデヒドの一件でも米軍の失態の影響を受けて苦しまなければならなかったのは韓国の市民であった。
このことをポン・ジュノ監督は作品に反映させたのだ。
つまり、在韓米軍によって受ける韓国市民の不利益の具現化がグエムルという怪物だったのだ。
ラストでヒョンソは一体どうなった?

本作で議論のひとつとして挙げられることが、ヒョンソの生存についてである。もしかしたら生きているのではないかといった考察が見受けられる。
結論から言うとヒョンソは死亡しているとみて間違いない。なぜなら公開当時ポン・ジュノ監督とソン・ガンホさんがヒョンソは亡くなったと言っていたからだ。
また、もしヒョンソが生きていたとしたならカンドゥは少年ではなくまず真っ先にヒョンソのもとへ駆け寄るはずだ。
一度ヒョンソと別の少女の手を取り違えて、グエムルにつれさらわれてしまう失態をしている以上、ヒョンソを最優先で抱き抱えて逃げているはずだからだ。
そのような行動がない以上、ヒョンソが生きていたとしたらカンドゥは一体何を考えていたのかよく分からなくなるし、あんなに必死になってヒョンソを探していた意義も観客は見失ってしまう。こう言った点から踏まえてもヒョンソは死んだとみて間違いない。
様々な予想や考察があるのは面白いので気になる方はもう一度映画を観て考えてみるのもありだ。