2019年に公開された映画『JOKER(ジョーカー)』は2020年アカデミー賞最有力候補と言われ、その前哨戦であるゴールデングローブ賞では数々の部門にノミネートされ、受賞に期待がかかっています。
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作品そのもの以外にもホアキン・フェニックスの熱演と音楽には高い評価が与えられています。
そんな2019年の名作『JOKER(ジョーカー)』を観た映画ファンからは
「タクシードライバーと重なる」
「JOKERを観た人はタクシードライバーも観るべき」
といった声が多数上がっており、40年以上昔の1976年に公開されたロバート・デ・ニーロ主演、マーティン・スコセッシ監督の名作『タクシードライバー』とつながる点が指摘されています。
それでは映画『JOKER(ジョーカー)』と『タクシードライバー』のつながりが指摘されている原因を探っていきましょう。
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まずは映画『JOKER(ジョーカー)』と『タクシードライバー』のあらすじを見ていきましょう。
【JOKER(ジョーカー)の基本情報】
〈あらすじ〉
「どんな時でも笑顔で人々を楽しませなさい」という母の言葉を胸に、大都会で大道芸人として生きるアーサーは世の人々を笑顔にしようと奮闘していた。

そんなアーサーの心に日々降り積もる世の中への不満がやがて狂気に満ちた悪へと変貌していくのであった。

【タクシードライバーの基本情報】
〈あらすじ〉
タクシードライバーの青年トラヴィスはニューヨークの街に車を走らせながらこの街の不浄さに苛立ちを感じていた。

大統領候補の選挙事務局に勤めるベッツィに恋をした彼はポルノ映画館に誘ったことで絶好されてしまう。

やがてトラヴィスの心に一つの計画が思い浮かぶ。
映画『JOKER(ジョーカー)』と『タクシードライバー』の共通点:評価
まずは何といってもその評価からです。
この二つの作品は世界三大映画祭の一つからそれぞれ最高賞を受賞しています。
『JOKER(ジョーカー)』は
第76回ヴェネツィア国際映画祭:金獅子賞受賞
『タクシードライバー』は
第29回カンヌ国際映画祭:パルム・ドール受賞
です。
世界三大映画祭にはヴェネツィア国際映画祭とカンヌ国際映画祭の他にベルリン国際映画祭が存在します。
また、『JOKER(ジョーカー)』は先日発表されたゴールデングローブ賞に複数部門でノミネートされており、『タクシードライバー』も公開当時複数部門でゴールデングローブ賞にノミネートされています。
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これらのことから映画『JOKER(ジョーカー)』と『タクシードライバー』は同じような評価を受けた作品といえるでしょう。
映画『JOKER(ジョーカー)』と『タクシードライバー』の共通点:空気感
次の共通点は映画全体の空気感です。
『JOKER』の主人公アーサーは孤独な優しい人間でした。貧困で、職もなく、恋人もおらず、友人もおらず、突然笑い出してしまう障害を抱えており、人々に理解されず、ピエロの格好をしてみんなを笑わせようとするも少年たちからリンチにあってしまう。社会から疎外されたアーサーはだんだんと正気ではなくなっていくのです。狂っていきます。
社会への反感が増大していきます。
終始鬱々とした状況です。むしろ状況は悪化していくばかり。
『タクシードライバー』の主人公トラヴィスは戦争帰りのストレスで不眠症を患っており、定職に就けず、社交性にも欠け、友人も恋人もおらず、孤独な青年です。タクシードライバーとして働くうちにマンハッタンの麻薬や性欲に溺れる人々を目にし嫌悪感を抱いていきます。
鬱々とした空気感はともにアーサーとトラヴィスをより悪い方向へと導いていきます。物語は狂気じみた暗さへと向かっていきます。
映画『JOKER(ジョーカー)』と『タクシードライバー』の共通点:アメリカンニューシネマ
『タクシードライバー』は最後のアメリカンニューシネマと言われており、『JOKER(ジョーカー)』は現代版アメリカンニューシネマと言えるでしょう。
アメリカン・ニューシネマとは、1960年代後半から1970年代半ばにかけてアメリカで製作された、反体制的な人間(主に若者)の心情を綴った映画作品群を指す呼称の事です。
『タクシードライバー』はその代表的な例としても挙げられます。
『JOKER』のアーサーも『タクシードライバー』のトラヴィスも、いわゆる反体制的な人間であり、映画では彼らの心情が綴られています。
アーサーの妄想とトラヴィスの考えも非常に似ているところがあります。
特に彼らが鏡に向かって自分に話しかけるシーンは印象的です。
映画『JOKER(ジョーカー)』と『タクシードライバー』の共通点:ラスト
最後に紹介する共通点は物語のラストについてです。
アーサーもトラヴィスも最終的には狂気的な存在となりました。


共通点は彼らを祭り上げたことに挙げられます。
アーサーはゴッサムシティの英雄的存在として祭り上げられ、トラヴィスは少女を救った英雄として祭り上げられました。
本来狂気であるはずの彼らが祭り上げられること。これは二つの映画にとって最も重要なメッセージの一つでもあります。
彼らが狂気なのか彼らを作った周りの社会の存在が狂気なのか?
これは先ほど紹介したアメリカンニューシネマで多く取り上げられてきた普遍的問いでもあります。
最後に、『タクシードライバー』に出演していたロバート・デ・ニーロは『JOKER(ジョーカー)』にもTV番組の司会者マレー・フランクリンとして出演しています。何とも皮肉な感じがしますが、このことから『JOKER(ジョーカー)』は『タクシードライバー』を意識して作ったと言う微かなメッセージを残しているとも捉えられました。