『スノーピアサー』は『パラサイト半地下の家族』でアカデミー賞作品賞を受賞したポン・ジュノ監督の作品の一つだ。
今回はそんな作品のラストの意味不明な点を考察すると共にそこに隠されたメッセージをより深く探っていく。また、記事後半では『パラサイト半地下の家族』との比較も展開していく。
2014年7月1日。地球温暖化を阻止するために、78カ国でCW-7と呼ばれる薬品が散布され、地球上はすべて氷河期のように深い雪で覆われた。かろうじて生き残った人類は皆、一台の列車「スノーピアサー」に乗って地球上を移動し始める。17年後の2031年。その列車では、多くの人間が後方の車両に押し込められ、奴隷のような生活を強いられる。一方、一部の上流階級は前方車両で、雪に覆われる前の地球と変わらない贅沢な生活をしている。そんな中、ひとりの男が立ち上がった。男の名はカーティス(クリス・エヴァンス)。
『スノーピアサー』公式サイト
『スノーピアサー』のラストの意味不明な点を考察

本作は完全なる格差を描いた作品で、列車内の構図は先頭車両近辺に暮らす上流階級と後方車両に暮らす底辺層となっている。
これはほとんど現代の社会構造をそのまま列車に落とし込んだものと考えてよい。そして、その構図を底辺層側の視点で描き、革命を起こすという要素を組み合わせることによって、観客にとって感情移入がしやすい展開となっている。
今回の革命とは列車の後方に暮らす底辺層が前方の上流階級の暮らす車両に存在するエンジンを乗っ取ることである。
そのためには上流層への革命を阻止する者たちを前方車両進むにつれて倒していかなければならなかった。結果的に主人公のカーティス(クリス・エヴァンス)は最前の車両にたどり着き、エンジンを支配していたウィルフォードを倒すことに成功する。
その後、列車前方のドアを破壊することになるのだがその衝撃と雪崩れによって列車は大きく破壊される。
この事故でカーティスとナムグン・ミンス (ソン・ガンホ)は死亡、ミンスの娘ヨナとカーティスに助けられたティミーのみが助かり、外の世界へと踏み出す。ラストで外に出ると2人はシロクマが歩いているところを目にする。
問題なのはこのラストの部分だ。このようなラストにはどのような意味が隠されているのだろうか。
そもそもが、CW-7によって地球が凍り付いてしまったという設定であるが、シロクマは外の世界で生きていた。
シロクマが耐えられる気温は-50C°までであるそうだが、シロクマならギリギリ生きることができる設定なのだろうか。劇中で昔列車から脱出したものは凍っていたシーンが登場している。
しかし、線路からはある程度離れていたので即死というほどの気温ではなかったのだろう。
その時よりも気温が上昇していると考えられる(飛行機の翼が雪溶けにより以前より露出していた為)のでもしかしたら人間でも生きていける環境になっていたのかもしれない。
また、なぜシロクマが登場したのかについてだが、これは単純に、外の世界でも息抜けることを明確に示しただけであると考えられる。ある種の希望のようなものだ。
それよりも、生き残ったのがヨナとティミーである事の方が重要であると考えられるので後ほど考察する。
また、ラストで外に出た時、一面に雪景色が広がっており最も明るい印象であった。
これは底辺層の暗さから列車の前方に向かうにつれて明るくなり、最終的に最も明るい外部へ脱出するという、暗から明をうまく表現したものと考えられる。
『スノーピアサー』と『パラサイト半地下の家族』を比較。共に格差を描いた作品。
『スノーピアサー』と『パラサイト半地下の家族』は共にポン・ジュノ監督の作品であり、格差社会を描いているが大きく異なる点が一つある。
それは、現実味があるかないかである。『スノーピアサー』には世界を一周する線路が登場したり、動き続けるエンジン、透視能力といったあり得ない設定が存在し、現実味がない。
一方で『パラサイト半地下の家族』は一般的に存在する貧困層と家庭と富裕層の家庭を描いている。そのため非常に現実味がある。
【感想・考察】映画『パラサイト半地下の家族』貧困と富裕の格差がぶつかることで伝えたかった社会へのメッセージとは※ネタバレあり
映画の評価ではアカデミー賞作品賞他、数々の世界的な賞をを取ったこともあり、圧倒的に『パラサイト半地下の家族』の方が高いうえ、心に刺さる作品だ。
同じ題材を同じ監督が描いても、ここまで違った印象の作品となることは驚きだ。
しかしストーリーの面白さでいったらさほど変わり無い気もする。そのため現実味があるかないかはその映画自体の評価にも影響すると言える。
やはり映画を作る上で人々の共感というものは非常に重要であると考えられる。
韓国映画『新感染』にも共通点が存在
韓国映画の『新感染ファイナル・エクスプレス』をご存知だろうか。少しネタバレを含むのでご容赦頂きたい。
本作はゾンビ映画ではあるものの人間味のある作品で非常に評価の高い作品だ。この作品の舞台も列車内で、簡単に説明すると列車内で感染したゾンビを倒しながら前方車両へと向かうストーリー展開だ。
新感染とスノーピアサーの共通点はそのストーリー性にもあるが、物語のラストに共通点が存在する。
それは生き残ったものたちに関する共通点だ。『スノーピアサー』では17歳のヨナともっと幼いティミーが生き残る。
そして『新感染ファイナル・エクスプレス』では主人公の幼い娘と、妊娠中の女性が生き残る。つまり生き残るのは共に肉体的な弱者たちだ。
それぞれの作品に登場する武装した上流層と、ゾンビに対峙できないものたちだ。そして対峙したものたちや人間味を失ったものたちはこぞって亡くなっている。
ここにどのような意味が隠されているのかわからないが、様々な映画において過酷な環境下で生き残るのは弱者であることが多い。
また、『スノーピアサー』には日本人もちょくちょく登場した。このことから本作は国際色の強い作品にしたいという意図があったと考えられる。
ポン・ジュノ監督は他にももっと興味深い作品を多く世に送り出しているのでぜひそちらもご覧いただきたい。
ポン・ジュノ監督のおすすめベスト映画6作を紹介。フル動画無料視聴方法も。