
カンヌ国際映画祭で韓国映画史上初の最高賞パルムドールを受賞し、アカデミー賞には作品賞として当たり前の如くノミネートされた本作は多くの著名人から大絶賛されており、ここ数年で最も強烈なメッセージ性を持った作品と言っても過言ではない。
何を隠そう、実際に私も映画館で衝撃を受け、魂を揺さぶられたような気がしてにやけてしまった。正に映画というエンタテイメントが伝えて欲しかったことがコメディ作品として私の体に皮肉と共に正に寄生虫のようにジワジワと染み込んできたのだ。
ハッと何かに気づかされる。そんな作品になっていたに違いない。
『パラサイト 半地下の家族』が人々に伝えたかったこととは一体何なのだろうか。
分かっていることは現代の社会を生きる人々に何かを投げかけ考えさせるにはこの作品がもたらす悲しいコメディしかなかったということだ。
本作が格差の広がる社会へ問いかけたこと。考えなければならないことについて考察していく。
ラストの衝撃結末にもポン・ジュノ監督の皮肉とも取れるメッセージが隠されていた。
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『パラサイト半地下の家族』が社会に伝えたかったメッセージとは。
まずは『パラサイト半地下の家族』という作品の表面について知ること。それが本作を理解する上で最も重要な準備だ。あらすじと作品情報、登場人物についてまとめた。

あらすじ
日の光もわずかしか届かず、電波も弱い半地下で暮らす全員失業中の4人の家族。何度も大学受験に失敗しているギウは友人から留学中の家庭教師のバイトの代わりを頼まれた。
身分を偽って訪れた生徒の自宅はIT企業経営するパク社長一家が暮らす高台の大豪邸だった。味をしめたギウは妹を美術の教師として紹介し徐々にパク一家に寄生していくのであった。予測不可能な結末に誰もが衝撃を受ける作品だ。
作品情報
監督 | ポンジュノ |
脚本 | ポンジュノ |
ハン・ジンウォン | |
音楽 | チョン・ジェイル |
配給 | CJエンタテインメント |
ピターズエンド | |
公開 | 2020年1月10日 |
上映時間 | 132分 |
登場人物
登場人物 | キャスト | 役柄 |
キム・ギテウ | ソン・ガンホ | 貧乏気ままなキム一家の大黒柱 |
キム・チョンスク | チャン・へジン | 元ハンマー投げの名手でギテクの妻 |
キム・ギウ | チェ・ウシク | 受験のプロでギテクの長男 |
キム・ギジョン | パク・ソダム | 美大を目指すギテクの長女 |
パク・ドンイク | イ・ソンギュン | 裕福の象徴でIT企業の社長 |
パク・ヨンギョ | チョ・ヨジョン | 若く美しいパク社長の妻 |
パク・ダへ | チョン・ジソ | 高校2年で年頃のパク社長の娘 |
パク・ダソン | チョン・ヒョンジュン | 好奇心旺盛なパク社長の息子 |
ムン・グァン | イ・ジョンウン | パク一家から信頼されている家政婦 |
資本主義社会における避けられない二極化。その上で現れた綻び。
本作では二つの社会的勢力図を落とし込んでいることは言うまでもない。
まずは貧困層のキム一家だ。

彼らは全員、職がなく電波すらろくに届がない半地下に暮らし不衛生な生活をしており、何を隠そう臭い。地下鉄のような貧乏の匂いがする。本作ではキム一家の臭いが鍵を握っていたことを先に伝えておく。事実、業者が道路に撒いている消毒剤をわざと半地下に取り込んで消毒するほど汚いのだ。
続いて富裕層のパク一家だ。

パク一家の大黒柱ドンイクがIT企業の社長ということもあって超大金持ち。高代の高級住宅街に住み、何不自由なく生活している。キム一家とは対照的。しかし、彼らにとってはこれが普通だ。
本作に登場するキム一家とパク一家。二つの家族は両極端の関係だ。社会の最底辺と言われても仕方ない極貧一家と、成功を収め何不自由なくそして裕福に生活する一家。彼らの関係は社会全体の構図の縮図でもあると言える。
本作は二つの家族を題材に社会全体が抱える問題を一つの作品に落とし込んでいるのだ。
格差社会という言葉を今初めて耳にしたものは果たしているだろうか。現代の社会でもこの構図が成り立ってしまっていることは言うまでもなく、気づいてはいるものの、果たして解決策などあるのだろうか。
資本主義とは遠い昔、封建主義ののちに現れた体制だ。産業革命やフランス革命、アメリカ独立革命などによって確立され、今日では当たり前となっている考え方には始まりがあるのだ。ある種、絶対的で万能な社会体制として信じられてきたのかもしれない。
長くバランスを保ってきた資本主義という現代社会の象徴に綻びがないと言い切れる者など現代のこの世に存在するのだろうか。
果たして、資本主義は崩れ始めているのだろうか。何の問題もなく成り立っているのだろうか。そんな疑問にコメディ作品として一石を投じ、強烈なメッセージとしてわかりやすく伝えてくれた作品が『パラサイト半地下の家族』である。
資本主義によって生み出された不平等は一体誰のせいなのだろうか。この世に誕生して以来、資本主義社会に生きる私たちが知っておくべきこととは一体何なのだろうか。
結論から言うと、それは資本主義社会が始まるときから分かりきっていた必然的な犠牲者、つまり貧困層が現れることだ。そのことは富裕層も現れることを意味している。資本主義なんて簡単に言ってしまえば雇うものと雇われるものの関係があって成り立つのだから必然的だ。そこに格差が生まれるのだ。
近年ではその格差が顕著に現れている。
こんな事実も存在することをみなさんはご存知だろうか。それは国際NGOのオックスファムが発表した、
世界で最も裕福な8人が保有する財産は世界の貧困層36億人の保有する財産と同じである(2017年時点)
というものだ。本作が主張していることの根拠がこんなにも分かりやすいデータとして現れているのだ。
貧困層と富裕層がぶつかった時に起こる必然的なこと

キム一家がパク一家に寄生する(パラサイト)という斬新なアイデアで展開する物語。彼らが衝突した時にもたらされる結果はどのようなものであっただろうか。
パク一家に寄生することで生きていく。そうでなければ生きていけない。
貧困層を題材にし、パルムドールを受賞した『万引き家族』にもどこか通ずるものがある。彼らは万引きをせずには生きていけなかった。近年の映画祭で評価されている作品は貧困層を題材に格差社会を描いたものであることも本作の社会へのメッセージとしても重要であることを示している。
しかし結果としてどうだっただろうか。キム一家はパク一家に何を見せられたのだろうか。
重大事件は2つある。1つ目の事件は、パク一家が息子の誕生日を祝うために出かけている間、キム一家が高台の豪邸で好き放題した際に起こった。この時大雨によってパク一家が戻ってくることがわかった。急いで机の下に隠れ、気づかれずに済んだものの、ギテクは地下鉄のような貧乏人の臭い匂いがするとして、侮辱とも取れる発言を耳にしてしまうのだ。
この時の発言が物語の総括となり、結果として直結していることは言うまでもない。
その後キム一家は無事バレずに半地下の家に戻るも大雨による洪水。高台のパク一家は大雨の被害など受けることなどなく息子の遊びに付き合えるほど。ここではあからさまに格差を描く場面として印象的だ。
貧困層へ格差を思い知らせるかのような場面にキム一家が見たものは絶望だけだった。
長く確立してしまった資本主義というシステムにたった数人の家族で対抗しようとしても結局は絶望するだけなのだ。
物語のラストに明らかとなる強烈なメッセージ

2つ目の事件。それはラストのあのパーティだ。印象的だったのは、大豪邸にも存在した地下に住んでいた男の匂いを嗅いだパクが鼻を摘んだことだ。
この時ギテクの怒りが爆発した。絶望が怒りへと変わった瞬間だ。どんなに這い上がろうとして、富裕層の一家に寄生しても地下の匂いは消えない。貧困層はどこまで行っても貧乏のまま。その状況から抜け出すことはできないという事実を見せつけられたのだ。
ギテクがパクを刺殺したのは単純にパクへの怒りのみがそうさせたわけではないのだ。
貧困層代表として資本主義というシステムによる犠牲者の代表として、パクという映画での富裕層の象徴へと怒りをぶつけたのだ。ギテクの行動は現代の社会への訴えとして捉えられる。
本作のメッセージとは
資本主義が作り出したシステムによる完璧ともいえる格差社会において、貧困層が這い上がろうとしてもそれはほとんどの場合不可能である
ということだ。
また、気付いた方もいるだろうが劇中の撮影方法に関しても、パク一家を上、キム一家を下として描かれる部分が何度もある。
こうして物語は結末へと導かれるのだが、格差社会を「におい」という要素を用いてあからさまに表現したポン・ジュノ監督は素晴らしいとしか言いようがない。
寄生虫の如く永遠に語り継がれる歴史的作品
果たしてこんなにも分かりやすいメッセージをコメディとして映画に落とし込み、人々に強烈なインパクトを与えた作品はこの世に存在するのだろうか。
今観るべき映画は何かと問われたら、私は間違いなく『パラサイト 半地下の家族』と答えるだろう。
格差が顕著に現れ始めた社会を問題視し始めた現代において歴史的作品の一つとして語り継がれるであろうし、そうであることを願いたい。
近年評価された映画
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パラサイト
これらに共通するものは一体何なのだろうか。一度考えてみるのも良いかもしれない。
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