終わってみると平凡なストーリーであったものの、青春音楽映画というジャンル内で鑑賞してみるとなかなか見応えのある作品となっていました。
『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』は1990年代に結成されたベン・アンド・セバスチャン、通称ベンセバといるバンドのスチュアート・マードックが監督を務めた2014年のイギリス映画です。
2009年にリリースされたスチュアート・マードックの同名アルバムをもとにしており、彼自身が脚本を務めました。
また、本作はベルリン国際映画祭にて上映されており公開当時は話題を集めました。
最近の青春音楽映画というとジョン・カーニー監督が自身が青春時代を過ごしたダブリンを舞台に描いた『シング・ストリート』の人気が高いですね。
『シング・ストリート』と『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』を比較するのはナンセンスかもしれませんが青春音楽映画というジャンルにある以上、少々物語が似ている気がしましたが、結末が全く異なるのでどっちもありだなという感じがしました。
どちらかの作品が好印象ならどいらの作品も気にいると思います。
後ほど詳しく解説します。
さて、余談はさておき『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』についてみていきましょう。
映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』あらすじ

出典:Rotten Tomatoes公式サイト
ここでは物語のあらすじを簡単に振り返っておきます。
あらすじ
拒食症で治療を受けていたイブはある日、病院を抜け出す。
ライブハウスにたどり着いたイブはジェームズと出会い、彼が音楽を教えているキャシーを紹介される。
3人はともに音楽を作り出すうちに、イブの心情に変化が生まれる。
最終的にイブは本気で音楽の道を志し、大学に通うために故郷を旅立つのであった。
予告編
主要3キャストについても少し調べてみました。
エミリー・ブラウニング(イブ役)
オーストラリア出身の女優で現在31歳(1988年12月17日生まれ)の彼女は『ゴースト・シップ』で注目を集めその後様々な映画に出演しています。
かなり覚えやすい顔の女優さんなので主人公役にぴったりだと感じました。
オリー・アレクサンダー(ジェームズ役)
イングランド出身の俳優・ミュージシャンで現在30歳(1990年7月15日生まれ)で2009年にデビューして以来映画に出演する一方、Years & Years(イヤーズ・アンド・イヤーズ)というバンドのボーカルとしても活躍しています。
本作ではあまり歌っているシーンがありませんでしたがかなり歌が上手いです。
Years & Yearsで最も人気のある楽曲を紹介しておきます。
ハンナ・マリー(キャシー役)
イングランド出身の女優で現在31歳(1989年7月1日生まれ)の彼女はゲーム・オブ・スローンズなど、様々な作品で活躍しています。
映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』【感想・解説】ザ・青春音楽ストーリー
本作を語る上で、お洒落なファッションとポップで風のように抜けていく音楽も重要ですが、やはり最も重要なのは3人の青年たちの一見平凡そうに見えるストーリー展開にあります。
というのも青春音楽映画の定番の流れ(というより最も心地の良い流れ)はやはり
-
出会い
-
変化
-
別れ
だと思います。
出会いの前には悩みがあり、変化の中には成長があり、別れが感動をもたらします。
当然、出会いというのは音楽とはもちろん、仲間との出会いも含まれます。
また、変化というのは音楽に対する気持ちの変化や、音楽そのものの上達があります。
言うまでもなく、出会いがその後の変化に直結し、そこでの様々な経験、例えば恋愛などが物語を決定づけます。
青春音楽映画では、この出会い、変化、別れの3ステップのすべてに音楽が絡んでいきます。
『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』はまさにこの3ステップにとても綺麗に当てはまる映画です。
ザ・青春音楽ストーリーです。ガシッと型にハマったような映画もありかもしれませんね。
平凡だが心に残る、出会い・変化・別れ
ストーリーは至って単純。
拒食症で入院していた少女イブが、病院を抜け出し、音楽の素晴らしさに出会い、ジェームズとキャシーという仲間に出会い、自分の進むべき道を決定するというもの。
特に大きな事件もなく、かなり平凡なストーリー展開で下手したら眠くなるような内容ですが、個人的にはそんな平凡な物語が何度でも観たい『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』というもののアイデンティティではないかと思いました。
私たちの日常生活において、自分のあるべき姿や進むべき道を決定する際に、そのひと押しとなるものは特に大きな出来事ではありませんよね。
単なる周りの環境だったりします。住んでいる場所だとか、付き合っている仲間たちだったり、私たちの人生を決定づけるものはその程度、そのレベルのものです。
『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』は映画だからといって大きな出来事を詰め込む必要はないのだと改めて実感させられたストーリーでした。
イブという少女が拒食症という一見ネガティヴな側面を持った少女が音楽を通じて自分の進むべき道を決定する。
これだけでも、私たちの生活に普通に存在する音楽というものが与える影響の素晴らしさの本質を捉えていたのではないかと思います。
音楽と出会い、仲間と出会い、自分で意思決定できるくらいまで成長する。
平凡ですが、実生活に近い、心に残るまたみたくなる映画ですね。
仲間がもたらした選択肢
本作ではイブという少女に焦点が当てられ彼女がどのような影響を受け、どのように成長し、どのような道を歩んでいくのかが重要であったと思います。
主人公ですから当然なのですが、そういった点ではジェームズが果たした役割は大きかったです。
というのも、イブはこれまで拒食症によって極端な話、ネガティブな人生を送っていました。
しかし、音楽と出会い自分と向き合い、自分自身がどうありたいかを見極め、音楽を学ぶために大学に進学するという道を選択しました。
イブにとっては様々な選択肢があったに違いありませんが、その一つがジェームズが主張したことだと思います。
彼にとっては音楽は自分が満足できればよく、レコードを発売して、たとえ売れなかったとしても歴史の一部になれればそれで良いという考え方でした。
当然そういう考え方もありだと思うのですが、その言葉に対してイブは明確に自分の意見を主張していました。
ここでイブという1人の少女が、音楽と出会い、刺激を受け、自分のやりたい事を主張できるまで成長、変化したということが示されました。
そういった意味では進むべき道の選択肢の一つとなったジェームズの存在は大きかったですね。
物語を彩ったのはお洒落なファッション
物語を彩ったものとして、やはり彼らのお洒落なファッションがあったかと思います。
一歩間違えればただの奇抜なファッションとなってしまいますが、物語の空気感と彼らの雰囲気にとてもマッチしていました。
というのも、基本的に落ち着いた雰囲気の彼らですが、ファッションはそれとは正反対でそれがアクセントとなり、うまく混ざり合いマッチしていたと感じたのだと思います。
お洒落な服を着て出かけるのは気分が上がるのでいいですよね。
病院で患者服ばかり着ていたイブにとっては尚更です。
何度でも聴きたくなるサウンドトラック
冒頭でもお伝えした通り、本作はベル・アンド・セバスチャンのスチュアート・マードックが2009年にリリースしたアルバムをもとに彼が監督・脚本を担当し実現した映画です。
実力のある人物の楽曲とあって音楽はかなり良かったです。
映画を観てから、何よりも先にサウンドトラックを聴き流すことは音楽映画あるあるですが、本作も例の如くでした。
良かった楽曲全てピックアップしてみたので参考までに。
【God Help The Girl】
【The Psychiatrist Is In】
【If You Could Speak】
【Come Monday Night】
【I’ll Have To Dance With Cassie】
【Down And Dusky Blonde】
全部いいですね。何回も聴けるし、そのうちにもう一回映画観たくなります。
『シング・ストリート』との比較※ネタバレあり
最後に先述したジョン・カーニー監督の『シング・ストリート』との比較を紹介しておきます。
ここからは『シング・ストリート』のネタバレを含みます。
あくまで個人的に感じたことなのであまり参考にならないかもしれませんがボヤキ程度に受け取って欲しいです。
青春音楽ストーリーで重要となってくるのが
-
出会い
-
変化
-
別れ
の3つの要素であるとお伝えしできました。この手の映画だと恋愛の側面も大きいですね。
この観点から『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』と『シング・ストリート』を比較してみます。
先ほどお伝えしたように『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』ではこの3要素が綺麗に並んで物語が完成していました。
一方で『シング・ストリート』ではどうでしょう。個人的には
-
出会い
-
変化
-
別れ
の順番になってはいるものの、少し捻りがあるのだと思います。
この点が『シング・ストリート』が人気な理由の一つだと考えられます。
『シング・ストリート』では1人の少年が仲間と出会い、音楽を通じて恋愛をし、憧れの女性とは一度別れてしまいます。(女性がイギリスに行ってしまう。)
その後、女性は戻ってきて、最後は憧れの女性と共に、故郷を旅立ちます。
つまり、『シング・ストリート』では『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』での男女の別れではなく、単なる故郷との別れで締めくくられています。男女はくっついています。
どちらが良いかは好みが分かれると思いますが、皆さんはどちらの終わり方が好きですか。
音楽と同時に、恋の行方がどうなるのか非常に気になる2作品でした。
結局はどちらもポジティブな終わり方なのでよかったですけども…。
それにしても一生ものの映画になりそうな、なぜか心に残る映画でした。やっぱり歌がいいんですかね。