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【徹底解説】実話映画『シカゴ7裁判』は世界中が政治・人種差別について考える今だからこそ観るべき映画だった※ネタバレあり

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『シカゴ7裁判』は、そのタイトルが示すように政治に対する運動、そして裁判が主となる物語であるため、非常にセリフが主要な多く登場人物も多い。

その上、名前もややこしいので映画そのもののドタバタ感が多少あったが、まとまりをもった歴史的意義のある素晴らしい作品であったといえる。

物語にまとまりを持たせた要因の一つが『ソーシャル・ネットワーク』(10)の脚本を担当し、絶賛されたアーロン・ソーキンが本作の脚本・監督を務めた事ではないだろうか。

また、キャスト陣もサシャ・バロン・コーエン、エディ・レッドメイン、ジョセフ・ゴードン=レヴィットはじめとした豪快な顔触れであった。

本作は実話を基にした映画であるため、時代背景と関連人物を掴むと格段に理解度が深まるといえる。

それらを理解した上で、構想から10年以上の時を経て公開された本作の伝えたかったことは一体何だったのか考察していく。

映画『シカゴ7裁判』を時代背景と共に徹底解説

出典:Rotten Tomatoes公式サイト

本作を理解する上で最も重要なことは、アメリカ合衆国1969年9月24日から行われた裁判とその経緯を知ることである。

中でも”シカゴ7”と”民主党全国大会”が重要なキーワードとなりそうだ。

まずは物語の根幹である実際に起こった出来事について詳しく解説していく。

そもそもNetflixでの邦題は『シカゴ7裁判』であるが、ここは一つ、原題を確認すると分かりやすい。本作の原題は『The Trial of the Chicago 7』で直訳するとシカゴ7の裁判となる。

ことの発端は物語で語られていたように1968年8月に開催された民主党全国大会である。

1968年と言えばベトナム戦争の真っ只中。アメリカ合衆国国内では反戦運動が激化していた頃であり、それに関連した団体がいくつも存在していた。

この党大会のデモ隊を市の許可なく扇動したとして起訴されたのが以下の8名であった。

  • ジェリー・ルービン
  • アビー・ホフマン
  • デービッド・デリンジャー
  • トム・ヘイデン
  • レニー・デイビス
  • ジョン・フローイネス
  • リー・ウィンナー
  • ボビー・シール

もちろんいずれも実在した人物であり、この内、ブラックパンサー党のボビー・シールを除いた7名を当時のメディア等が「Chicago 7」と名付けたのである。

民主党全国大会について

アメリカ合衆国の政治については普段、日本で生活しているとあまり興味関心を持たないかもしれないが、本作を理解するには最低限の知識があったほうが良いという事は観たものなら当然感じたであろう。

もちろん『シカゴ7裁判』はベトナム戦争(1955年~1975年)に対する反戦運動に参加したグループのリーダーがデモの現場で逮捕・起訴され、紆余曲折の末に勝利を勝ち取ったという事は理解できるが、そこまで話は単純ではない。

ということで、より深く本作を理解するために、ここではアメリカの政治について簡単に解説ていく。

そもそもアメリカ合衆国には二大政党と呼ばれる共和党と民主党が存在する。この他にも全国的に展開されている少数政党は存在するが19世紀以降に、この二大政党の指名を受けなかった大統領候補が当選した例は存在しない。ちなみに大統領選は一般的に4年毎の11月に実施されている。

第45代アメリカ合衆国大統領のドナルド・トランプ氏は共和党所属であり、2020年11月に行われる大統領選において彼の対抗馬となるのが民主党のジョー・バイデン氏である。

長く歴史をたどると共和党は1854年に奴隷制度の廃止を訴える勢力が集まったことによって構成された。その中心的な人物が第16代アメリカ合衆国大統領エイブラハム・リンカーンでアメリカ合衆国共和党として初の大統領となった人物だ。

一方で、民主党は第3代アメリカ合衆国大統領トーマス・ジェファーソンが立ち上げた民主共和党が起源とされている。

戦時中から『シカゴ7裁判』で描かれた1968年の大統領選までの大統領を歴任してきた人物には民主党に多いイメージであるが、それ以降は、共和党が多いイメージである。

第二次世界大戦(1939年~1945年)に参戦したのは民主党フランクリン・ルーズベルト大統領の頃で、本作で問題となっていたベトナム戦争に50万人を超える兵士を送り込み泥沼化させたのが同じく民主党リンドン・ジョンソン大統領の頃である。

1968年の大統領選の時点ではベトナム戦争が無意味な戦いであり、多くのアメリカ人の若者に犠牲者を出していることが市民の間で周知されており、反戦運動が激化していた。

当然、ベトナム戦争を推し進める当時の政権には批判が集まり、その結果として民主党全国大会に反戦を訴える者たちが集まったわけである。

映画で描かれたのはその後、デモの現場で逮捕された者たちの裁判についてだ。

ベトナム戦争の泥沼感についても日本ではあまり馴染みがないという方も多いと思うが、『地獄の黙示録』(79)『ディア・ハンター』(78)といった名作映画が存在するのでそれらを鑑賞すると少し理解度が深まるかもしれない。

シカゴ7(Chicago 7)について

映画で語られた頃のアメリカ合衆国について少し理解が深まったところで、ここからは本作のタイトルともなっているシカゴ7について解説していく。

アメリカ合衆国国内のベトナム戦争に対する反戦運動が激化する中で1968年8月に行われた民主党全国大会は大荒れとなっていた。

各地でデモが活発となり何千もの人々が街に繰り出し、警察当局と一触即発の状態となるほどであった。このデモで逮捕・起訴されたのが先ほども紹介した8名である。

  • アビー・ホフマン
  • ジェリー・ルービン
  • デービッド・デリンジャー
  • トム・ヘイデン
  • レニー・デイビス
  • ジョン・フローイネス
  • リー・ウィンナー
  • ボビー・シール

彼らはそれぞれが異なるグループの一員として活動していた。具体的には以下のようなグループである。

  • 民主社会学生同盟
  • イッピー(青年国際党)
  • ベトナム戦争終結運動
  • ブラックパンサー党

民主社会学生同盟にはトム・ヘイデン(エディ・レッド・メイン)、レニー・デイヴィス(アレックス・シャープ)が所属しており、主に反戦運動を行っていた。

イッピー(青年国際党)はアビー・ホフマン(サシャ・バロン・コーエン)、ジェリー・ルービン(ジェレミー・ストロング)が共同創始者で、デービッド・デリンジャーはベトナム戦争終結運動(MORE)のリーダーであった。

また、ブラックパンサー党は都市部の貧しい黒人を警察から自衛するために結成された組織で、物語ではかなり気の毒な存在であったボビー・シール(ヤーヤ・アブドゥル=マーティン2世)が全国委員長として所属していた。ちなみにブラックパンサー党は、マルコム・Xやマーティン・ルーサー・キングの暗殺によって更に活動が活発となったと言われている。

この内、裁判で審理の対象から早々に除外されたボビー・シールを除く7名がマスメディアによってChicago7(シカゴ7)と名付けられ報道された。

また、裁判ではシカゴ7の弁護団としてがウィリアム・クンスラーとレナード・ワイングラスが参加。ウィリアム・クンスラーは公民権運動家で言論の自由への徹底した姿勢を貫いた人物として有名だ。

検察官はリチャード・H・シュルツ(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)、裁判官はジュリアス・ホフマン(フランク・ランジェラ)が担当した。

ジュリアス・ホフマンは本作におけるヒール役としての位置づけであったが、実際にも陪審員に対する被告側弁護団の質問を拒絶するなど、かなり偏った裁判官であったとされており、彼が下したシカゴ7に対する判決は再審によって全て覆り、加えてボビー・シールの殺人罪は冤罪であったことが明らかとなっている。

そもそもなぜ裁判が行われたのか

本作では、明らかに偏った裁判が行われ、とても先進国に存在した法廷ではないように映っていたが、それらが事実であったことを踏まえるとかなり衝撃的だ。

あそこまで政治的に偏り、また、誰が見ても人種差別的な判断をする裁判官が存在したと思うと信じられない。

アビー・ホフマンが終始訴えていたように、シカゴ7とボビー・シールに対しての起訴の経緯から判断すると政治裁判であることは間違いない。

そう考えると、『シカゴ7裁判』で描かれた暴動がおこった時代背景、起訴理由、シカゴ7の勝利は歴史的に見てもかなり重要な出来事である。

本作を観るだけでもかなり勉強になるが、このような政治裁判が行われた背景にはいったい何があったのだろうか。

シカゴ7の面々は共謀し、州を越えて暴動を扇動したという理由で連邦法違反とされ起訴されたわけだが、この背景については物語の序盤でリチャード・H・シュルツが司法長官のジョン・N・ミッチェルと対面した際に明らかとなっている。

大統領選が終わり政権が民主党から共和党へ交代された際に、通常、旧政権の閣僚は自ら辞任するのが礼儀となっているが、ラムゼイ・クラークはそれを行わずジョン・N・ミッチェルに恥をかかせたのだという。

その事に対してかなり腹を立てていたジョン・N・ミッチェルはラムゼイ・クラークに恥をかかせるために言わば、彼へのあてつけの裁判を行おうとしたのだ。

実際、ラムゼイ・クラークは予備審問において司法長官の任期中にシカゴ7の面々の起訴を求めておらず、その理由として暴動の原因がシカゴ市警側にあったからとしている。

これはジョン・N・ミッチェル明らかに政治的な意図をもっているという裏付けであり、その運びとなった理由も幼稚ですらある。

映画『シカゴ7裁判』が伝えたかった事とは

『シカゴ7裁判』が映画として観客に伝えたかったことは一体何だろうか。

最も重要なことは歴史上に存在する事実であり、それを現在の人々が映画として観ることで何を感じるかである。

つまり人それぞれ感じることは違うのでもちろん正解はない。

しかし、分かっていることは当時の裁判は政治裁判であり裁判官は偏っていたという事。

自分が正しいと思っていることを正しいと言えない検察官が存在し、大きな権力に負けそうになっていた事。

さらに、それらに対抗する市民が存在して、それを正しいと援護してくれる群衆が存在して、最後には正しいほうが正しいと判断されたという事。

そしてベトナム戦争を続けたことに何の意味もなく、過ちであったという事に市民が気づき、何の意味もなかったという考えが現在でも変わらない事。

さらに当時の人種差別は酷いもので、半世紀以上経過した現在でも差別が変わらずに残っているという事実の虚しさである。

これらを整理して、どう感じるかが半世紀後の未来にとって非常に重要であるのではないだろうか。

『シカゴ7裁判』が”今”最も観るべき映画である理由

ここまでの事を踏まえると、『シカゴ7裁判』は非常にタイムリーな映画であるといえるのではないだろうか。

アメリカ合衆国では大統領選が行われており民主党と共和党の候補者が争っている。

そして黒人差別に抗議する運動「Black Lives Matter」も2020年に入ってから世界中でより一層活発となっている。

また、言論の自由が脅かされることに対する議論もネット社会が発達したことによる情報統制によって以前よりも非常に多く行われている。

メディアを通して知るのみで、日本ではあまり馴染みがない事柄が多いかもしれないが、グローバル化が進み様々な背景を持った人々に出会う可能性がある中で、知らないでは済まされない知識もあるのかもしれない。

『シカゴ7裁判』においては、政府の権力によって市民の言論の自由が脅かされ、法廷はとても先進国のものとは思えないような状況であった。

そしてあからさまに黒人差別的な判断をする裁判官まで存在した。

今では考えられないと思いがちだが、私たちの知らないところで、それも日常で実際に本作のような出来事は起きているかもしれない。

『シカゴ7裁判』は、まさに歴史を振り返ることの重要性を改めて実感する、後世に伝える手段となりうる今観るべき名作映画だったのではないだろうか。

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  • この記事を書いた人

Mr.Pen

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