2020年1月3日にイスラム革命防衛隊の英雄ソレイマニ氏が殺害され、アメリカとイランが一気に緊張状態となった。しかし、両国の関係性がこのような状態となったのは今に始まったことではない。
そもそも私たちにとって中東情勢とは複雑で様々な勢力が入り乱れ、全く理解するには程遠いというのが現状である。また、どの情報が正しく、間違っているのか見分けることも非常に難しい。
今回の一件によってアメリカとイランは全面戦争突入直前まで迫ったが、事態は収束に向かっている。私たち素人の意見としては、「戦争にならなくてよかった」などであろうが、もう少しアメリカとイランの関係性について知っておいた方が良いと考えられる。
そこでおすすめなのが、映画『アルゴ』だ。ここでは、アメリカとイランの歴史的背景とともに本作について解説していく。
実話映画『アルゴ』を観て、アメリカとイランの関係性をみる。あらすじとともに解説
本作の物語的には非常に単純明快である。
1979年2月、イラン革命の際に反体制勢力がパフラヴィー国王を追放した。追放されたパフラヴィー国王を最終的に受け入れたのがアメリカ合衆国である。到底受け入れられないと反発したのがイラン市民である。学生を中心にイランアメリカ大使館へのデモ活動がヒートアップ。ついには突入され52人のアメリカ人外交官が人質となってしまうのである。
しかし、大使館が占拠される直前に6人の大使館員が脱出し、近くにあったカナダ大使公邸に逃げ込むことに成功した。6人の存在にイラン政府は気付いていなかったため、アメリカのCIA秘密工作本部作戦支援部のトニーメンデスを中心に『アルゴ』という架空の映画をでっちあげ6人の救出を試みるのであった。
本作は実話を描いた名作として非常に高い評価を得ている。実際、ゴールデングローブ賞ドラマ部門作品賞監督賞を受賞、アカデミー賞作品賞、脚色賞、編集賞を受賞している。
一方でほとんどが実話ではあるが、一部事実と異なる点もある。
『アルゴ』事実との相違点を解説

本作の事実と異なる点は緊張感が走る場面全般である。
映画として観客に楽しんでもらうためには、要所要所にハラハラする展開が必要であるため仕方のないことではある。
ここでは事実と異なる点を解説する。以下である。
- 物語ではイランに潜入したのはトニー・メンデスのみであるように描かれているが実際にはCIAの要員がもう1人密入国している。
- カナダ大使邸に6人全員が匿われているように描かれているが、実際には分散していた。
- 救出作戦にはいくつか選択肢があったが、最終的にアルゴ作戦を選んだのは6人の大使館員。
- 実際にはバザールにロケハンとして訪れていない。
- 救出作戦決行の直前に中止命令が出ているが実際に中止命令が出たのはトニー・メンデスがアメリカを出国する前。
- 出国直前の出国審査で革命防衛隊員たちが偽造に気づき追いかけてくるシーンがあるが、実際には何事もなく出国した。
実話と映画で描かれた内容の相違点はどれも観客がハラハラしたシーンでしたよね。映画のみで描かれたシーンは観客を楽しませるためのものであったということでしょう。
アメリカとイランの歴史的背景を解説
アメリカとイランは現在でも緊張状態が続いている。特にソレイマニ氏が殺害されてからは一気に緊張が高まった。
しかし、それは今に始まった話ではなく映画『アルゴ』で描かれたように過去の背景も絡んでいるのである。
アメリカとイランの歴史的背景を解説する。
1950年までのイランでは欧米企業が石油を支配していた。しかし1951年、民主的選挙によりモハンマド・モサッデク政権が成立すると石油国有化政策を行い、イランの石油の国有化を行った。これをいいと思わなかったアメリカはクーデターを起こしたのだ。アメリカはモハンマド・レザー・パフラヴィーを国王とし、権力を掌握させた。これに黙っていなかったのがイラン市民だ。イラン国内では保守派とリベラル派の両方からアメリカへの反発の声が上がった。
その後は映画『アルゴ』と同様、1979年にイラン革命が起き、パフラヴィーは失脚。アメリカへという流れになる。
イラン革命での一連の流れによってイスラム共和国となったイランは周辺のアラブ諸国に広めようとし、アメリカや同盟諸国へのテロ行為を支援していると現在でも言われている。
また、1980年にはイラン・イラク戦争が勃発。アメリカを含む連合軍はイラク側について代理戦争のような形となった。死者は100万人を超える。
その後も1990年に湾岸戦争など決して良い関係とは言えない。
映画化までの経緯
『アルゴ』が製作され、評価されるには理由がある。
現在でもアメリカとイランの関係は好ましくなく、いつ戦争が起こってもおかしくない状況。アメリカとイランの歴史的関係を知るためにも必要な映画だったといえる。
また、アルゴの事実が判明したのは救出作戦が成功してから何年も経った後でそれまでは秘密事項として扱われていた。
事実が明らかになった事で映画化され、評価された。